岡山市近郊。車通りの多い幹線道路からすこし奥に入ると、急に道幅が狭くなり旧街道のようにカーブしてゆく小路が現れます。山へ山へと続く道を進めば石垣の連なる向こう、新緑の間からニョキリと黒い煙突が顔を覗かせました。
ここが今回ご紹介する、Dさんが住む平屋のリノーべションハウスです。
FEATUREひと手間と、その先。
HOME&LIFE
素敵なお家のヒミツをさぐる。 part.1 リノベーションの平屋ハウス
SNSで見付けたり、はたまた町を歩いていて偶然出会ったり。思わず「うわ〜素敵!」なんて口に出てしまうぐらい魅力的な家は、どうやって作られ、そしてどんな風に暮らされているのでしょうか? 新シリーズ”素敵なお家のヒミツをさぐる”ではそんなお家と住人の方への取材を通して、様々な家作りについてご紹介したいと思います。
2022.05.27 by AXCISONLINE
小路の先のえんとつの家。
築50年の日本家屋をリノベーションした住まい
石垣が途切れて現れた平屋のお家。遠くから見えた大屋根に近付いて行き、格子に組まれた軒下に入ります。古い建材に馴染むようにさりげなく新しい設備が組み合わされていて、簡素で洗練された印象を受けました。
元々は別荘として客人をもてなすためのゲストハウス的な使われ方をしていたこのお家。数寄屋を思わせるシンプルな佇まいは、どこか現代の住宅のスタイルに通じるものを感じさせます。
どんな家作りをされたのでしょうか?
Dさんご夫妻と3人のお子さんが暮らすこの家は、漆喰で塗られた壁や、タイル貼りのキッチン、天然木をふんだんに使用したぬくもりあるインテリアでまとめられています。
キッチンやバスルームなどの設備には新しい製品も取り入れられて、使い勝手も良さそうなこのお家。いわゆる古民家リノベーションとは一味違う印象を受けますが、一体どんな家作りをされたのでしょうか?
「この家に出会う前は夫と二人で東京で働いていました。2011年に東日本大震災が起きたのをきっかけに、今後自分達がどうやって生きて行きたいのかをよく考えるようになって。私の故郷である岡山にUターンするのも良いな〜と周囲に相談をしていたら、たまたま折込チラシでこの物件を見つけた父から連絡があったんです。最初は軽い気持ちで見学に訪れました。」
一目惚れをして購入へ。
「ちょうど秋だったので、庭の紅葉がすごく綺麗に色付いていたんです。林が近いので手入れが必要だとか、再建築不可のエリアで今後新築も出来ない場所だとか、デメリットもたくさんありました。でも、夫も私もここの周辺環境含めすっかり惚れ込んでしまって、すぐに購入を決めたんです。」
遠隔地からの家作り
思いがけず古屋の購入とリノベーションのプロジェクトが始まったDさん。当時はまだ住宅やインテリアについての知識も少なかったため、古い建築物の再生に造詣が深い岡山の設計事務所ココロエ一級建築士事務所に依頼をするところから計画がスタートしました。
東京に住みながらの家作りは、メールでの細かな連絡や、出張の合間を利用した対面の打ち合わせなどを経て進められました。
梁や柱はそのまま、ワンルームのような大空間にリノベーション
リノベーション前後の間取りを比べてみます。(※実際の施行時には若干変更あり)数十年前の日本の家は3〜6畳程度の小さな部屋をたくさん配置する間取りが主流でしたが、現代の生活に合わせるため、間仕切りを取り払って大きなリビングダイニングに変更。他にも水回りの位置を変更し、屋根・外壁・床に断熱材を入れたり張り直しを行うといった改修を行っています。
リノベーションを考えている方へのアドバイスはありますか?
もしもこんな味のある家が手に入って、リノベーションをするのなら…。何か気を付けた方が良い事やアドバイスはありますか?
古い家ならではの寒さ対策。
「冬場の寒さ対策はしっかりとした方が良いでしょうね。古い家は断熱材が入っていなかったり、密閉性も低いので底冷えします。我が家もリノベーションの際に壁や床に断熱材を入れたり薪ストーブを設置したりしていますが、一年目の冬はとても寒く感じました。二年目からは窓の内側に自分達で二重サッシを作って取り付けたり、だんだん体も慣れて来ましたが、家づくりの段階で等級の高い断熱材を選んでおいても良かったな、と思っています。」
リノベーションならではのトラブルもあります。
「仕様や価格がある程度定まっている規格住宅と違って、リノベーションはいざ施工が始まってから仕様変更になる事も多いんです。我が家も途中で思っていた材料が手に入らなかったりだとか、予算オーバーしそうになったりだとかがあって、棚や子供部屋の床などは自分達で材料を調達して工事に参加しました。実際に家作りに参加したのはすごく良い経験で、今後もなにか不便があれば自分で作ったら良いんだなと自信が持てた気がします。」
生活の変化に合わせてどんどんカスタマイズ
玄関横に置かれたソファ。背面には入居当初窓があったそうです。お子さんがソファに腰掛けた時にガラスにぶつかってしまったり、冷気が染み込んでくる事などが気になって、後から改修。板を貼って腰高壁風にされています。
玄関土間も後から付け加えられました。当初は店舗空間のように全面板張りのフロアでしたが、子供が生まれてからやはり玄関が必要だと思い、DIYで板を切ってモルテックスを流し込み造り上げたそうです。
入居時に100%完璧な状態じゃなくても、住みながら自分達で作ってゆけば良い。こうやって常に手をかけられているお家だからこそ、優しくあたたかい空気感を持っているのかもしれません。
古い家での暮らしや生活に合わせて変化する家作り。魅力的だな〜と思いながらも、未経験だとハードルが高いようにも感じられます。Dさんはこれまでに古いお家に住まわれていた経験があるのでしょうか?
暮らし方に影響を受けた海外生活
「古い家を直しながら住むと言うのは、海外生活をしていた頃に馴染みがあった生活スタイルなんです。若い頃に留学や就職でデンマークやアメリカ等に住んでいたのですが、どこの国でも古い家に手を加えながら暮らすのはよくある事でした。当時から付き合いが続いている友人達の多くも中古の家をリノベーションをして住んでいるので、自分にとっては自然な選択だった気がします。」
留学先のデンマークでは家での暮らしを楽しむ文化を知り、就職で渡ったアメリカやメキシコでは多種多様な価値観に触れたDさん。自身が積極的にDIYに参加していた訳では無かったそうですが、住まう人の家に対する愛着や手の掛け方を見ながら「いつか自分もああやって暮らすのかな」という未来図を描いていたのかもしれません。
「日本でも古い家を直して住み継ぐ事はできるんじゃないかなと思いました」
「日本は湿度が高く地震も多い土地なので、建物の劣化が早くリノベーションには向いていないという話もよく聞きます。けれど、アメリカ南部や東南アジアなど高湿度で自然災害が多い地域でも、古い建物を直しながら住み継ぐ事は珍しい事ではありませんでした。ちゃんとした素材と工法で作られた家なら、日本でも古い家をリノベーションして暮らす事は不可能ではないと思ったんです。」
この家で育つ子供達
入居時には夫婦二人だった家も、今では三姉妹が賑やかに駆け回り笑い過ごす場所となりました。姉妹たちはそれぞれに読書をしたり、庭で走り回ったりと、広い敷地の中で気ままにすごしているそうです。
「親が常にどこか直したり作ったりしているのを見ているからか、子供も”お庭に自分の小屋を作りたい”と言い出したりして、作る事前提で考えるのが面白いな〜と思っています。庭や離れの小屋などまだまだ変えられる場所はたくさんあるので、次はどこをいじろうかな?と、考えるのも楽しい時間なんです。」
より良い形で住み継いでゆく
取材の終盤。次に改装する場所を尋ねたら「お恥ずかしいのですが…」と言いながら、家の裏側の納屋を案内してくださいました。納屋と母屋の間に渡してあった波板がボロボロなので、新たに木材で作り直す計画なのだそうです。より良くするために手を加えて進化させてゆく、その手の跡があちこちで感じられました。
”素敵なおうちの秘密をさぐる。”第一回の今回は、リノベーションの平屋ハウスをご紹介いたしました。「家に愛着を持って手を掛ける」「暮らしの変化を受け入れて家自体も変えてゆく」というヒントを元に、この場所にどんな家があったら素敵だと感じるのかな?という想像力を膨らませれば、自分たちにとって住み良い素敵な家が出来上がるかもしれません。
今まさに家づくりの真っ最中という方も、新築やリノベーションを計画されている途中の方も、今回の記事が家づくりの参考となりましたら幸いです。
【 取材協力 】
株式会社ココロエ一級建築士事務所
〒700-0026 岡山県岡山市北区奉還町4-7-22
TEL.086-238-3557
FAX.086-238-3444
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